iDeCoの賢い受け取り方
老後が不安、年金で足りるの?と悩む方にとって救世主となるのがiDeCo。
掛け金を積めば積むほど節税になり運用利益は非課税と、iDeCoを使えば1000万円や2000万円といった金額の老後資金を準備することも夢ではありません。
しかし、iDeCoの受け取り方はとても複雑で、受け取り方を間違えてしまうと、税金で損をすることもあるのです。
せっかく節税効果の高い制度なのに、最後の最後で台無しにしてしまわぬよう、現金を受け取ることまでをしっかりと考えておくことが大切です。
今回は、iDeCoを賢く受け取る方法について解説していきます。
iDeCoの基本的な仕組みについては、こちらの記事でご紹介しているので、ぜひご覧ください。
目次
1.iDeCoの給付条件
iDeCoは、原則60歳以降で受け取る事ができます。しかし、受け取るタイミングは他にもあることをご存じですか?
iDeCoを賢く受け取る方法の前に、iDeCoの基本的な給付条件について頭に入れておきましょう。
①障害給付金
病気やケガなどで障害を抱えてしまった場合など、もしもの時にも受け取ることができます。
以下のような高度障害状態の場合、60歳に達していなくても受け取る事ができます。
- 障害基礎年金1~2級を受け取っている
- 身体障碍者手帳1~3級の交付を受けている
- 療育手帳(重度)の交付を受けている
- 精神障害者保険福祉手帳1~2級の交付を受けている
②死亡一時金
加入者が亡くなった場合に、遺族が受け取れます。
主に以下の遺族が請求・受け取りが可能です。
- 妻・夫
- 子供
- 両親
- 孫
- 祖父母
- 兄弟・姉妹
③老齢給付金
原則60歳~75歳の間で、自分の好きなタイミングで受け取ることができます。(※2022年4月以前は60歳~70歳)
ただし60歳の時点で、積み立てや運用をしていた期間が10年未満の場合、受け取れる年齢が後ろ倒しになります。
iDeCoの受け取り方で、1番知られている方法ですね。
iDeCoは、老齢給付金以外にも障害給付金や死亡一時金といった、もしもの備えになる機能を持ち合わせているので、掛け金が払い損になるということはありません。
投資なのでリスクを取ればマイナスになることもありますが、iDeCoは基本的に長期投資するものなので、そのリスクはかなり小さくなります。
ちなみにですが、iDeCoの財産は差し押さえ禁止財産。(国税の滞納などによる差し押さえは除く)
もし事業に失敗して借金を背負ったとしても、iDeCoで作った財産を第3者にとられることはありません。
フリーランスにとっては安心できるので、マメ知識として頭に入れておくと良いでしょう。
2.iDeCoの受け取り方
iDeCoの受け取り方には、以下の3つのパターンがあります。
- 年金
- 一時金
- 年金と一時金の併給
年金の場合は「均等額で取り崩し」「均等割合で取り崩し」などが選べます。
商品によっては終身年金として受け取ることも可能です。
次に、障害給付金、死亡一時金、老齢給付金、それぞれの場合の受け取り方をみていきましょう。
障害給付金の場合
障害給付金の場合、年金でも一括でも併用でも非課税になります。
そのため、受け取り方によって「税金を無駄に払う」リスクはありません。
死亡一時金の場合
その名の通り一時金として受け取ることしかできません。
iDeCoの場合、みなし財産として法定相続人1人につき500万円の非課税枠があります。
例えば、iDeCoの残高が1000万円で残された家族が妻1人子1人なら、非課税枠は500万円×2人となるため、相続税は一切かかりません。
※その他にみなし相続財産(生命保険金など)がない場合
死亡一時金の場合は、受け取り方を選べるわけではありませんが、優遇税制があるので、基本的に判断を誤って損をするリスクはありません。
ここで気を付けておきたいのが、死亡一時金は遺族が自分で請求しないともらえないということ。
iDeCoの加入者が死亡してから3年以内に請求しないと、500万円×法定相続人分の非課税枠を利用できなくなり、税負担が激増してしまうのです。
iDeCoに加入している人は、「死亡したら3年以内に請求することを忘れないように」と家族に伝えておくことが必要です。
老齢給付金の場合
老齢給付金は、年金として受け取った場合は「雑所得」、一時金として受け取った場合は「退職所得」、併給の場合は「雑所得」と「退職所得」という扱いになります。
年金として受け取るか、一時金として受け取るかで税金の額がかわってきます。
傷害一時金や死亡一時金とは違い、受け取り方の判断を誤ると100万円レベルで損をすることにもなるので注意が必要です。
3.受け取る際に掛かる税金の計算方法
iDeCoは、掛け金を拠出した時には「所得控除」になるので節税になりますが、お金を受け取る時には「所得」として課税されてしまいます。
「散々節税になるとアピールしておいて、最後受け取る時に課税するの!?」と思われた方も多いはず。
その点のケアとして、以下の2点の扱いを認めています。
- 一時金として受け取る場合には退職所得扱いにする(退職所得控除を認める)
- 年金として受け取る場合には雑所得扱いにする(公的年金控除を認める)
税金は収入にそのまま税金が掛かるわけではなく課税所得に応じて高くなるので、控除をたくさん使えると課税所得が減るので税金が減ります。
退職所得控除は、以下の計算式で算出することができます。
勤続年数(iDeCoの場合は加入年数)×40万円(20年以下の場合)
勤続年数(加入年数)が20年を超える場合は、20年を超えた1年につき、さらに70万円ずつ控除額が増えていきます。
【例:20年かけてiDeCoで1000万円の資産を作った場合】
20年×40万円=800万円の所得控除が認められます。
1000万円に対して税金が掛かるはずが、200万円(1000万円-800万円)にしか税金が掛からなくなるのです。
さらに退職所得というのは、退職所得控除を引いた金額に1/2を掛けるので、最終的な所得は200万円×1/2=100万円となります。
4.iDeCoの税金を最安にする賢い受け取り方
iDeCoを受け取る際に掛かる税金を最安にする方法の基本的な考え方は、以下の2点です。
- 退職所得控除を2度使う
- 公的年金控除を使い切る
iDeCoを老齢給付金として受け取る際には、「退職所得控除」の範囲内で一時金として受け取り、残額があれば「公的年金控除」の範囲内で小分けにして年金として受け取るのが賢い方法です。
※ただしiDeCoの受け取り額や加入年数、勤務先での退職金の有無や勤続年数などで、人によって前提が違うので都度判断が必要になります。
では、それぞれ見ていきましょう。
①退職所得控除を2度使う
会社員や公務員の場合、自分で作ったiDeCoの他に、勤務先からの退職金があります。
この場合どちらも「退職所得」なので、両方に退職所得控除を使っても良いの?という疑問がわく方もいると思います。
次の2パターンのみ、退職所得控除を2度使うことが可能です。
- 勤務先から退職金を受け取って、その15年以上後にiDeCoで一時金を受け取る
→60歳で勤務先から退職金を受け取って75歳でiDeCoを受け取る - iDeCoで一時金を受け取って、その5年以上後に勤務先から退職金を受け取る
→60歳でiDeCoの一時金を受け取って65歳で勤務先から退職金を受け取る
どちらかで退職金を受け取ってから一定期間経過しないと、退職所得控除の枠を2度使う事はできないので注意が必要です。
この2つ以外の場合は、1つの退職所得控除枠を「iDeCo」と「退職金」で共有することになります。
②公的年金等控除の枠をフルに使いきる
iDeCoの一時金の額が、退職所得控除を上回っていた場合に使えるのが公的年金等控除です。
例えばiDeCo1000万円に対して退職所得控除が800万円の場合、残額200万円の1/2に課税されてしまうのではなく、公的年金等控除をうまく使えば非課税にすることができます。
公的年金等の雑所得には、以下のように公的年金等控除が認められているのです。
- 65歳未満の人には、年額60万円までの年金が非課税
- 65歳以上の人は、年額110万円までの年金が非課税
現状では、65歳以上から受給できる国民年金は満額で約80万円。iDeCo(年金)を年額30万円未満にすれば、合計で年額110万円におさまるので、非課税で年金を受け取ることができます。
自営業、フリーランス、専業主婦の人にとってはありがたいですね。
一方で、厚生年金に加入している会社員や公務員は、国民年金+厚生年金で平均受給額が年額約170万円あるので、iDeCoを年金として受け取ると、ほぼ確実に課税されます。
それならば、すべて一時金として受け取り、退職所得として「1/2」を乗じた金額に課税された方がマシかもしれません。
5.まとめ
iDeCoを賢く受け取る方法について解説しました。
【iDeCoの給付条件】
- 障害給付金
- 死亡一時金
- 老齢給付金
【iDeCoの受け取り方】
- 年金
- 一時金
- 年金と一時金の併給
障害給付金は、どの受け取り方でも非課税。
死亡一時金は、iDeCoの加入者が死亡してから3年以内に請求しないと非課税枠が消滅するので注意が必要です。
【iDeCoを税金最安で受け取るポイント】
- 「勤務先退職金」と「iDeCoの一時金」の受け取り時期を調整し、退職所得控除を2度使う
- 公的年金控除の枠をフルに使いきる
受け取り方を間違えると、100万円200万円レベルで納税額が増えます。
iDeCoの受け取り方選びは人によって正解が異なり、それぞれの判断が必要です。
受け取る際の税金だけに着目するのではなく、iDeCoに掛かる手数料や運用利回りなどを考慮し、広い視野でトータルで賢い受け取り方を選択しましょう。